2016年10月20日第2回 株式会社ZMP
“ものを移動させる”で
開発した「キャリロ」
「自律走行で移動」を実現するのは自動車だけでない。自動運転と並行して谷口氏が考えていたのが、「自律走行でものを移動させる」ということ。「人がものに変わっただけ」と谷口社長は説明する。 「ある日、宅配便の配達をしている人が、1人で2台の台車を押していました。これは大変そうだと思ったのがきっかけです」 そこで開発したのが物流支援ロボット「CarriRo(キャリロ)」だ。 物流の会社は人手不足に頭を抱えている。その一方、ネット通販の拡大で物流量は年々増大している。また、ドライバーや倉庫のスタッフは高齢化が進んでいる。「ドライバー不足だけでなく、若者の倉庫要員のなり手も少ない。そこで物流支援ロボットで仕事を楽にし、仕事を楽しんでもらいます」という気持ちが「キャリロ」開発を動かした。 |
|
物流の現場では、コンピュータ化とともに自動化が進み、大型の自動倉庫では仕分け作業からピッキングまで自動化され、リフトやベルトコンベアで荷物が運ばれる仕組みができている。これらはマテリアルハンドリング機器、いわゆるマテハン機器と呼ばれ、物流量の増加や首都圏近郊での倉庫建設ラッシュで市場が拡大している。その中には自動搬送台車と呼ばれる、倉庫内の貨物移動を自動化する台車もある。しかし、それらは決められた場所を走行するだけ。床に埋め込まれたガイドを頼りに動くのが一般的だ。 それに対して「キャリロ」の特長は自律走行。必要なルートを教えておけば、障害物などを避けて自律走行する機能を開発中だ。床にガイドを埋め込まなくてよいので走行ルートの変更も容易だ。 「キャリロ」の操縦は簡単だ。作業者は台車のバーに取り付けられた速度制御や前後進のセレクターを操作して動かす。手をかけておくだけで台車を動かせるので、荷物を載せた重い台車を押すための負荷はほとんどゼロ。セレクターの形状は自動車のオートマチックトランスミッションのセレクターと同じ。当初はタッチパネル方式や、バーに添えた手の圧力で動かすという仕組みも考えたが、「目新しいインタフェースは事故のもと」との判断で、現場での安全性を重視して現在の形になった。
現場での実証実験で仕様を固め
2016年8月から出荷を開始
「キャリロ」のもう一つの特長は、作業者が操作する台車の後を2台の「キャリロ」が追従する「カルガモモード」だ。「キャリロ」の荷台前方には2台のイメージセンサーが内蔵されており、常時撮像したステレオ画像で前方との距離を計測。作業者が腰などに赤外線を発する専用のビーコンをつけていれば、その赤外線を認識して2台の「キャリロ」が後をついてくる。赤外線によってIDも識別するので、別の作業者の後を追うこともない。 1台の「キャリロ」を押せば2台の「キャリロ」がついてくる。つまり従来に比べて1人で3倍の荷物を運ぶことができる。「実証実験では、キャリロの操作性や運搬能力が高く評価されました。しかも、従業員からは、“ロボットと働くことができて楽しい”“職場が明るくなった”という意見も出ました」という。仕事が楽になったことで、精神的にも余裕ができる。「キャリロ」にはそんな効果もあるようだ。 ZMPでは物流現場で実験を続け、台車の積載量を最大40㎏から100㎏にするなどの仕様変更も行った。また、「作業スピードを上げるためもう少し速い方がいい」との声を受けて、当初は人が歩く速度の4㎞/hだった走行スピードを6㎞/hまで対応できるようにした。 2016年8月から「キャリロ」の一般販売を開始。現在の仕様は本体重量が55㎏。既存の倉庫内レイアウトをそのまま使えるようにという配慮から、大きさは通常の台車と同じにしてある。稼働時間は8時間。充電は、2時間で80%、6時間で100%チャージできる軽量のリチウムイオンバッテリーを使っている。
「Robot of Everything」を掲げ、 便利で楽しい社会を目指す
ZMPが掲げるミッションは「Robot of Everything=人が運転するあらゆる機械を自動化し、安全で楽しく便利なライフスタイルを創造する」。「キャリロ」の開発コンセプトから明らかなように、「ロボット社会実現を前進させるために、まず高いニーズがある所から入っていく」との方針は明確だ。 ZMPのグループ会社には自動車に関するデータを収集し解析するプラットフォームを提供するカートモ(JVCケンウッドとの合弁)、車載ソフトのテスト走行データの解析を目的としたZEG(ハーツユナイテッドグループとの合弁)、ロボットタクシー事業化のためにディー・エヌ・エーと設立したロボットタクシー、ソニーと合弁で設立したドローンを使った産業向けソリューションの開発会社であるエアロセンスといった企業がある。 それぞれの分野でロボットや自動化に関連する技術やソリューションの開発を行っており、エアロセンスのドローン事業では、「90haの土地を測量する場合、人手を使うと6週間かかる。しかしドローンを使えば3日間で完了できます」と、自動化技術によって生産性の向上は確実だという。 かつて日本が得意としていたエレクトロニクス技術は、他のアジアの国々の得意とするところとなり、ソフトウェア技術では相変わらずアメリカを追随するしかない。かつての輸出立国の姿はもはや薄れている。 しかし、ロボットや自動化技術をはじめとした技術分野では、まだ日本企業やベンチャー、大学などを含めて研究開発能力は衰えていない。 「だからこそ、東京オリンピック・パラリンピックは格好のアピールの場になります。そこで技術を売り込めばいい」と谷口氏は語る。 「あと4年といわれますが、むしろ4年というリミットが決まっている方が目標を設定しやすい。2年間をベースとなる技術の開発に充て、3年目に実証実験、4年目に実用化というパターンでちょうどいいくらい」と自信満々だ。そして「ミクロの話ではなく、もっとマクロ的に社会に変化を起こしていきます。便利で楽しい社会を創造する。それが今の日本に必要なビジョンだと思います」と、様々な社会問題の解決につなげていくために、ロボット技術や自動化技術の開発と提案に力を入れていきたいと話している。
谷口 恒(たにぐち・ひさし) 氏
株式会社ZMP 代表取締役社長
株式会社ZEG 代表取締役社長
エアロセンス株式会社 代表取締役社長
ロボットタクシー株式会社 取締役会長
1964年生まれ。兵庫県姫路市出身。
群馬大学工学部卒業後、自動車部品メーカーでアンチロックブレーキシステム開発に携わる。その後、商社の技術営業などを経て、2001年にZMPを創業。家庭向け二足歩行ロボットや音楽ロボット開発・販売を手掛けた後、2007年から自動車分野へ進出。メーカーや研究機関向けに自律走行車両や技術の提供を行う。2014年以降、自動運転技術を様々な産業へ応用し、Robot of Everything戦略を加速させている。

(撮影:清水タケシ)
【監修:株式会社日経BPコンサルティング】
記事中の意見・見解はNECフィールディング株式会社のそれとは必ずしも合致するものではありません。
-
NECフィールディングのロボット事業について詳しくはこちらのサイトをご覧ください。