2018年11月06日 第9回【後編】筑波大学大学院システム情報系教授/
サイバーダイン株式会社代表取締役社長・CEO 山海嘉之氏
The Game Changer
試合の流れを一気に変える人--ゲームチェンジャー。
物事の流れを根底から覆し、人々の暮らしや社会、企業活動などに変革をもたらす……。
歴史のダイナミズムとは、そのようなゲームチェンジャーたちによる挑戦の結果によるものかもしれません。
現代社会を揺り動かすゲームチェンジャーとはどのような人たちなのか。
変革をもたらす視点、独自の手法、ゴール設定、モチベーションをいかに維持するか等々、変革に挑戦した者だけが語ることができる物語を紹介します。
社会に変革をもたらす
少子高齢化や人口減少といった社会環境の変化に我々は直面しており、それらに起因する様々な課題が浮かび上がっている。そんな中、その解決にAI(人工知能)やIoT、ロボティクスなどの技術を使う動きが広がっている。サイバーダイン株式会社は、AIやIoH/IoT*1の技術を生かした医療・介護用ロボット「HAL®」(Hybrid Assistive Limb®)を研究開発、製造する。同社のCEOで筑波大学大学院システム情報系教授でもある山海嘉之氏に、ロボット開発のきっかけから未来のあるべき姿まで、その思いを聞いた。
*1 IoH/IoT(Internet of Humans / Internet of Things)は、山海氏が提唱するこれからのビッグデータの要となるヒトとモノのインターネットのこと。
大切なことは「人に喜んでもらえることをすること」
――――2004年にサイバーダイン株式会社を設立し、ロボット産業やIT産業の次の段階の新産業「サイバニクス産業」の創出に向けて取り組みを本格化させています。開発された革新的サイバニックシステムの代表例として、「HAL®」は治療目的のほか、介護や作業支援分野でも用いられています。
山海 最初にお話ししたように、「人や社会に喜んでもらえることをやり抜く!」という思いが根底にあり、身体機能の改善や再生などを目的として研究開発を続け、世界初のサイボーグ型ロボットとして「HAL®」は誕生しました。 |
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ロボットは本来、一度動き出したら人が介在せずに動き続けること、つまりオートノミー(自律的)に活動することと定義されています。『われはロボット』で登場するロボットたちも基本的には自律的に動作します。その定義からすれば、「HAL®」はロボットではありませんね。随意制御と自律制御が混在した世界初のサイボーグ型ロボットといえるでしょう。脳卒中等で麻痺した下肢を動かすことで機能再生を促す「HAL®医療用下肢タイプ」は、患者さんの意思で動くのです。福祉用の「HAL®自立支援用下肢タイプPro」も同じです。
幅広い学問領域をカバー
――全体をひとつのシステムとして扱っていこうとすると、様々な領域の技術や知見が必要になります。
山海 そうですね。例えば、HAL®は、人の脳神経系・身体系とロボットや情報系をつなぎ機能的に融合・一体化させるサイボーグ型ロボットですが、【サイバニクス*2:人・ロボット・情報系の融合複合】を駆使することで、ここまで仕上げることができました。人とロボットと情報系という複数の領域の知見や技術を一つのシステムとして扱っているからこそ実現できたと考えています。
*2 Cybernics(サイバニクス)は Cybernetics, Mechatronics, Informaticsを中核として、医学、工学、心理、倫理、哲学、法律、経営などを包括した新領域
私たちが扱う医療・福祉・生活分野の課題は、どれも単独の課題ではなく、常に複数の要素からなる複合的な問題が絡み合ってできており、細分化された既存の縦割りの研究分野・技術分野の立場だけからでは解決が困難です。そこで、人や社会が直面する複合的な課題を扱うことのできる、様々な分野を融合した新しい学術領域が必要であると考え、1980年代後半にサイバニクスを構想し立ち上げました。2007年には文部科学省が重点強化する教育研究領域にもなっています。
サイバニクスを駆使して創り出される様々な革新技術は、HAL®にとどまらず、新たなデバイスやそれを活用したサービス事業として展開していくことが可能になるでしょう。