2017年12月22日第7回 フリークライマー 野口啓代さん
トレーニングの毎日。オフには岩場を登ることも
――野口さんの1日はどのように過ごしているのでしょうか。
野口 日本にいるときは、シーズン中ならば午前中に体のコンディションを整えて、午後からクライミングジムで夜までトレーニング。家に帰ってご飯食べてストレッチして寝るだけという1日ですね。食事は、お肉をたくさん食べることもありますし、甘いものもとくに制限していません。ダイエットもしていないですね。体重が落ちると疲労しやすくなりパフォーマンスを発揮できないので、食事はきちんととります。 |
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遠征中は、ジムに行ってトレーニングという回数は減ります。とくに大会前日は壁を登りません。移動してホテルに入って大会期間中の食事の買い出しに行って、あとはホテルの部屋でストレッチしたり、ちょっと走って時差ボケを修正したりといったことに時間を充てます。
移動中の機内でもストレッチをします。さすがに走ることはできませんので、歩き回ったりですね(笑)。日本代表のユニフォームを着ているので、競技種目はわからなくても、「日本代表選手なんだな」と許してもらっている……と思っています。
――大会日程が進むにつれて疲れもたまります。ツライな、と思う時はありませんか。
野口 日本に戻ってきて、疲れが残っていたり時差ボケがなおらない中で、次の遠征に向けて準備したりトレーニングしたりしているときは、ツライと思うこともあります。自分が期待するように体が動かなかったり、結果が出なかったりしたときなどは、どうしようかと迷いが頭をもたげてくるのも仕方ないことです。ただ、登ること自体が好きなので、疲れていてもストレスを感じることはないんです。オフの時でも登りたいと思うし、簡単な課題でも登りたいと思う性格なんです。オフの時はシーズンに向けて身体作りと筋力アップを加えたトレーニングのほか、息抜きとして自然の岩場にも登りに行きます。
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ボルダリングの大会では1つの課題を登る制限時間が4分間と決まっていて、ものすごく神経を集中させるんです。もし、クライミングやっていなかったらここまで集中することってあるかな、と思うくらい。その4分間は普段の生活で過ごすものより長く感じるんです。集中力が求められるので日ごろから訓練をしておかないと集中の仕方を忘れてしまうかもしれないですね。 |
オフに自然の岩場に行っても、息抜きと同時に、集中してルートを考えていますね。街を歩いていて、あのビルならこのルートで登れるな、なんて考えたりもしますよ(笑)。
「続けることで成長できた」
――2020年の東京オリンピックで、スポーツクライミングが追加種目になりました。また、最近ではフリークライミングを楽しむ人も増えていますね。
野口 2020年に照準を合わせていきます。オリンピックでは、「リード」、「ボルダリング」に加えて、登る速さを競う「スピード」の3種目混合で争われます。今はスピードにも取り組んでいるところです。
スピードは15mの壁を登る速さを競う競技。ボルダリングと違う体力や要素が求められる競技です。クライミングというより“垂直の陸上競技”といった感じ。世界トップクラスの選手は、男子で5秒台、女子で7秒台。15mはビルでいえば4-5階の高さに相当します。階段を走って上がるより断然早いスピードで壁を登るんです。陸上のトレーニングも取り入れて、下半身の強さと瞬発力を高めていかなければなりません。
また、3種目を1日でこなすのは大変な体力勝負です。スピードは始めたばかりですが、トレーニングを重ねて体力をつけ、3種目をバランスよく向上させていくことに集中しています。 |
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――2020年の東京オリンピックが当面の目標ですが、それ以降の目標はありますか。
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野口 私自身、小学6年でフリークライミングに出合って、続けることで成長できたと思っています。楽しいから、好きだからというのはありますが、とても楽しく充実した時間を過ごしていると実感します。フリークライミングを楽しむ人が増えてきているので、その楽しさをもっと伝えられればと考えています。 |
野口 啓代(のぐち・あきよ)さん
フリークライマー
1989年生まれ。茨城県龍ケ崎市出身。小学5年生の夏に家族旅行のグアムでクライミング初体験。小学6年生で出場した全日本ユース選手権で優勝。2005年世界選手権3位(リード)、第1回ボルダリング・ジャパンカップ(神戸)優勝。2017年までに通算10勝を飾る。2008年のボルダリング・ワールドカップフランス大会で念願の初優勝、プロへ。16年はボルダリング世界選手権3位、リード・ワールドカップスロベニア大会2位。17年ボルダリング・ワールドカップ年間ランキング3位など安定して上位入賞を続けている。

(撮影:清水タケシ)
【監修:株式会社日経BPコンサルティング】
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