2016年6月15日第1回 ロボットクリエーター 高橋智隆氏
プラットフォームを作り、そこに様々なアプリを呼び寄せる
--ロボットの具現化としては、どんなやり方を考えているのでしょうか。
AIがチェスや囲碁で人間に勝ったのは、AIに取り組む企業が勝てそうな分野を選んでやっているからです。ロボットも部分的にはAIを活用しますが、足りない部分は人が遠隔操作したり、プログラムを入れ込んだりして、全体では知的にふるまっているように見せる仕組みが必要です。そこにデザイン的な要素とビジネス的な要素を入れ込んで、人々の期待に近づけていくのです。
もっとも、ビジネスセンスがあってプロモーションがうまい人は技術がない。逆に技術を持っている人はビジネスセンスがない。昔のスティーブ・ジョブズ、今であれば、テスラモーターズのイーロン・マスクはその両方が理解できる希有な例なんだと思います。加えて時の運みたいなものも必要です。
--方法論が必要になってくるということですね。
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それがイノベーションであり、ゲームチェンジャーとは新たな仕組みを作る人のことです。しかし、日本はそれが得意ではないように感じます。 |
今使っているものの延長上で始めることで、“広がり”を作り出す
--人型ロボットの開発はどこから始めたのでしょうか。
今、最も普及しているコミュニケーションツールはスマートフォンですが、実は5年以上前に、スマホもいずれパソコンや液晶テレビのように成熟して行きづまるだろうと感じていました。
ところで、テクノロジーを普及させるには、普及のためのステップを準備しなければいけないわけです。よく例にあげるのが、お掃除ロボットのルンバです。最初のモデルはおもちゃでした。当時、10万円の本格的なお掃除ロボットを売り出したとしても、誰も買わなかったでしょう。しかし安価なおもちゃとしてクリスマス商戦で売り出せば、冗談で買う人がいます。すると、期待していなかったのに予想に反してきちんと掃除ができる、と評判になったのです。そのタイミングを見て、本格的な10万円近い価格のモデルを発売し、大ヒットしたのです。
これは非常にうまいやり方です。このように、ポイントは普及のステップをデザインできるかどうかなのです。それができなければ、テクノロジーは未来永劫、消費者にとどかないのです。
ロボットにおいても、3年ほど前に手がけたパーツ付き組み立てマガジン『週刊ロビ』はとてもよく売れました。
--その要因はどのあたりにあるのでしょうか。
今までは電気街のロボット専門店に行って、何十万円を一気に支払う必要があった。自分で組み立てられるのか、本当に面白いのか、そんな訳の分からないものに大金を払えない。でもロビは本屋さんで買うことができ、創刊号は790円と安い。じゃあ「数号買ってみて止めてもいいや」と思って手に取る。そして、組み立て始めると、まず最初に頭部が完成する。これも作戦だったのですが、何だか完成させないとかわいそうな気がして続けざるを得なくなる(笑)。
その結果、結局半数近い人が定期購読してくださり、大ヒットしたのです。しかも、今まではコアな男性ファンばかりだったのに、ロビ購入者の4割近くが女性でした。つまり女性をも含めた市場があることが分かったのです。コミュニケーションロボットに200億円の市場があることを証明し、その影響を受けたプロジェクトはたくさんあると思います。モバイル型ロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」もそのひとつでしょう。
--「RoBoHoN(ロボホン)」では何を目指しているのでしょうか。
スマホに代わる新しいコミュニケーション端末です。携帯電話ショップでスマホのような料金プランで購入できる。で、スマホだから持ち歩く。ロボットのような新しいものをいきなり暮らしの中で使えと言われても無理です。そこで、今の暮らしに浸透しているスマホの延長線としてスムーズに導入しようと考えたのです。そしてスマホとして使っているうちに、徐々にロボットならではの機能に気付いてもらおうと考えています。 |
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