2021年8月16日事業継続とテレワーク
地震、豪雨などの自然災害や新型コロナウイルスなど、事業継続性の観点からテレワークの導入が加速度的に進んでいるが、やはり生産性の向上を目的とする企業が根強い。
結果的に生産性の向上ができなければ出社することになり、自粛が出来ない職種も多い。
ここでテレワークの目的を整理してみよう。
① 生産性の向上
※労働生産性=(営業利益+人件費+減価償却費)÷従業者数
- ・集中による知的生産性向上
- ・迅速な顧客対応
- ・グローバル化への対応 など
② 働き方改革
- ・従業員の意識改革
- ・企業風土の改革
- ・ワーク・ライフ・バランスの実現 など
③ 事業継続
- ・新型コロナウイルス、新型インフルエンザ等パンデミックや地震
- ・台風等災害時等への対応 など
④ 人材の確保・育成
- ・さまざまなライフイベントに遭遇する従業員の離職抑制
- ・キャリア継続
- ・優秀な人材の確保 など
⑤ コストダウン
- ・ペーパーレスの推進による紙のコストの削減
- ・フリーアドレスなどの施策の併用による賃借料の削減 など
多くの会社は③事業継続にばかり目が行ってしまうが、中小企業にとっては④人材の確保・育成も外せない項目である。都心でこそ事業継続性が叫ばれているが、地方に行けば親の介護で実家に戻るために必要になったなどそれ以外の対策が必要となることが多い。
また、目的と合わせて考えるべき指標についても紹介する。
テレワークには生産性の向上など目に見える定量的な指標と働き方改革やワーク・ライフ・バランスの実現など制定的な指標がある。
【定量的指標例】
- ・自宅と勤務先の中間などにあるサテライトオフィス勤務や客先への直行直帰、Web会議システムによる交通費や移動時間の削減
- ・集中して作業できることによる書類作成時間の削減
- ・ペーパーレスや光熱費、オフィスの縮小によるオフィス賃料の削減、通信交通費等の削減、電話・データ回線費用、通話料金、運用コストなどオフィスコストの削減
など
【定性的指標例】
- ・業務プロセス(情報共有度、仕事の質、生産性)
- ・コミュニケーション(頻度と質)
- ・人事評価(テレワーク実施者の満足度)
- ・自立性(業務の自立的な管理に対する評価)
- ・働き方の質(仕事に対する満足度・通勤の疲労度)
- ・生活の質(個人生活・家族とのコミュニケーションの満足度)
など
この生活の質の向上こそが従業員のテレワークに対する最も重要なメリットである。
通勤の疲労度も在宅勤務をして初めて気づくことの1つであり体力がある人でも共通していう。
目的と指標を決めた上で進めるテレワークだが、全く導入をしていない企業が最初に取り組むのは書類のデータ化である。
外から書類を見る事ができなければそもそも在宅勤務ができず、出社することになる。
会社に出社した際にひたすらスキャナで読み込む作業をする企業もある。
次に取り組むのが外から見るための仕組みとしてVPN接続やクラウドサービスの利用の検討である。
どちらにしてもセキュリティ対策ができていなければ許可されない企業が殆どであり、テレワークマネージャーとして支援する最も多い項目だ。
以前は就業規則など制度に関する相談も多かったが、働き方改革関連法やテレワーク時の就業規則のテンプレート・ガイドラインなどにより就業規則を整備するところもでてきたため、就業場所の明示(自宅や自宅に準ずるところ等)※労働基準法施行規則5条2項や手当(通勤・通信費・水道光熱費)※労基法89条5号等の法令に関するもの、人事評価制度や業務連絡・報告の方法や教育・研修※労基法89条7号、労働時間など変更がある場合の記載など在宅勤務規程として制定するところも増えてきた。
もちろん忘れてはならないのが情報セキュリティ対策の追記する必要がある。
就業場所の明示がなぜ必要かと言うと、労働災害の問題が絡んでいる。
明示した場合、労働災害の対象となり、以下の判例がある。
【労災認定事例】
自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが、トイレに行くため作業場所を離席した後作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した例。
これは業務行為に付随する行為に起因して災害が発生しており、私的行為によるものと認められないため、業務災害と認められた。
子供の対応や介護など業務行為に付随しない行為は対象外となる。
また、労働時間に関して言うとフレックスタイム制、事業場外みなし労働制、裁量労働制とあり、すでに就業規則で定められているところが多いが、テレワーク時は以下の項目を取り決める必要がある。
- ① 中抜け時間
- ② 通勤時間・出張旅行中の移動時間中
- ③ 勤務時間の一部でテレワークを行う場合の移動時間等(部分在宅など)
テレワークは結果的にどこでも仕事ができてしまうゆえにこのような取り決めが大事であるため、各企業では目的と指標とあわせて、就業規則などもしっかり再検討してみるとよい。
また、次回のコラムでは実際テレワークを導入した企業または検討中の企業で抱えている課題について紹介するので、参考にするとよい。
家田 佳代子(いえだ かよこ)氏
総務省テレワークマネージャー / 日本テレワーク協会 講師 / 日本テレワーク学会会員 / GOLF KING株式会社 監査役・相談役
- ・自身が母親の介護と育児のWケアのため介護離職を経験
- ・半導体メーカーにてテレワークシステムを導入、介護をしながら業務を可能に
- ・鉄道系ICカード会社にて情報セキュリティ責任者に就任
- ・各業界で活躍しているスタッフが集結し女性支援会社を設立 代表取締役社長兼CEOに就任
- ・人材系SIerにてディレクターに着任、ワークスタイル変革事業立上げ、総務省テレワー・ク実証事業の事業責任者をする他、企業への導入を支援
- ・合同会社ジョイン設立代表兼CEOを務める
