2021年7月26日
デジタル庁とは?基本方針と企業に与えるメリット・デメリットについて
昨今、ニュースなどで「デジタル庁」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
国や社会全体でデジタル化がさらに進めば、企業活動や日常生活においても「より効率的でより便利になるのだろう」と想像はできますが、具体的にデジタル庁は何を行うところなのでしょうか。
今回は、デジタル庁の概要や基本方針、具体的な業務内容をとともに、企業に与えると考えられるメリット・デメリットを解説します。自社のデジタル化や新たなシステム導入を検討している方は、ぜひご一読ください。
デジタル庁とは
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デジタル庁の新設は、菅首相が総裁選のときから最も優先すべき課題だとして掲げていた胆入りの政策の一つです。発足は2021年9月1日の予定で、スムーズに進められるよう内閣官房に準備室が立ち上げられます。 デジタル庁は、省庁や各自治体のITシステムを統一し、行政のデジタル化を推進する司令塔として機能するものです。また、行政だけではなく、社会全体のデジタル化を進めるため、施策策定の方針などが定められている「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)」を全面的に見直して、国民による社会経済活動全般のデジタル化の推進を目指します。 |
背景
デジタル庁が新設される背景には、新型コロナウイルス感染拡大にともなって、省庁や各自治体の情報共有・行政手続きのアナログさが露呈したことがあります。具体的には、以下のような点です。
- ・マイナンバーシステムをはじめとした、国民が安心して利用できる便利な情報システムが十分に構築できていなかったこと
- ・国や各自治体の情報システムや業務のプロセスがまちまちで、横断的にデータを活用できていなかったこと
- ・これらにより行政手続きなどに大幅な遅れが出てしまったこと
このように、感染症関連の対応をきっかけとして、日本の情報システムに関するさまざまな課題が明らかになりました。加えて、日本は世界各国と比較しても、電子政府の進み具合で大きく後れを取っています。
その結果、行政手続きの遅れや問題に対して迅速に対応するため、デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が今まで以上に問われるようになりました。そこで、データの蓄積や共有、分析に基づいた行政サービスの向上を目的として、行政のデジタル化が推進されているのです。行政をはじめとした社会全体のデジタル化の推進は、日本のさまざまな課題解決・経済成長にもつながるものだと見込まれます。
基本方針
デジタル庁は、行政のデジタル化推進の司令塔として機能するために、各省庁や自治体へ意見する権利である「勧告権」など、総合的な強い調整機能を持ちます。
その他、おもな基本方針は以下のとおりです。
- ・デジタル社会形成に関する基本方針策定などの、政策の企画立案
- ・国、各自治体準公共部門などの情報システムの見直し・統括・管理
- ・国、各自治体準公共部門などの情報システムにおける重要なシステムの整備
このような基本方針のもと、行政サービスの抜本的な向上を目指します。
デジタル庁の業務内容
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デジタル庁が具体的に行う業務内容は、次の7項目です。ここでは、それぞれの業務内容を簡単に解説します。 |
1.国の情報システム
国の情報システムの整備・管理に関する基本方針を策定し、既存の情報システムを、デジタル庁のシステム・各府省のシステム・両者共同システムの3つに区分し直すなど、システムの標準化を進めます。事業の統括・管理をし、情報システムを標準化・統一することで以下の2点が期待できます。
- ・政府の情報システムを統合して民間システムとの連携を取りやすくする
- ・ユーザー視点から、行政サービスと業務サービスの改革を推し進める
これにより、国民や事業者にとっての利便性をさらなる向上を目指します。
2.地方共通のデジタル基盤
全国規模のクラウド移行へ向けて、総務省と連携を取りながら、地方公共団体の情報システム標準化・共通化に関する企画と総合的な調整を行います。補助金交付のシステムについても統括・管理を行うことで、財政・人的負担を軽減してサービスの利便性向上を目指します。
3.マイナンバー
マイナンバー・マイナンバーカード・公的個人認証といった、マイナンバー制度全般に関する企画立案を行う体制を構築する役割を担います。市区町村などと連絡を取り合ったり調整をしたりなど、実施事務の役割を持つ総務省と連携してマイナンバーカード普及の加速化を図ります。
これにより、国民が行うさまざまな手続きにおいて書類が省略でき、オンライン上での手続きが可能です。利便性・公平性のアップにつながることが見込まれます。
4.民間のデジタル化支援・準公共部門のデジタル化支援
全面的にIT基本法を見直し、国・各自治体・事業者のデジタル化に向けての役割を規定。具体的には、国の定めるデジタル社会形成に関する重点計画での施策や達成時期などが明記されます。
業種を超えて情報システムを連携させることで、行政手続きの規制見直し・合理化を進め、民間のデジタル化を促進することが目的です。
これにより、中小企業をはじめとする企業の生産性アップ、新たな産業分野の重複投資排除、そして成長の加速化を図ります。
5.データ利活用
ベース・レジストリとして整備するべき情報を明確にすることで、行政手続きを一度で完結できるような体制を目指します。ベース・レジストリとは、個人・法人・不動産など、社会の基本的なデータベースのことです。
法人や個人を特定・識別するID制度や電子署名といった、発信者の真正性を保証する制度の企画立案を行い、ユーザー視点での改革・普及を推進します。
6.サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティ戦略本部と連携しながら、サイバーセキュリティに関する基本方針を示します。庁内にはセキュリティ専門チームを配備し、整備・運用するシステムの検証や監査を行います。国の行政機関のセキュリティ監査は、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC) が行い、連携して国民の情報資産を保護します。
7.デジタル人材の確保
デジタル庁や各政府部門においての人材確保のため、ITスキルに関する民間の評価基準を活用して人材採用を円滑に進めます。最新のデジタル技術を駆使できる優秀な人材が、民間・自治体・政府を行き来しつつキャリアを積める環境づくりに努めます。
企業に与えるメリット・デメリット
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デジタル庁の発足は、企業にとってはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。それぞれ確認してみましょう。 |
メリット
メリットとしては以下のようなことが期待できます。
業務の効率化・生産性の向上
これまで、顧客情報や商品管理など業務に必要な情報を書類・書面で管理していた場合、大幅な業務の効率化ができるでしょう。検索すれば必要な情報がすぐに見つかるようになり、管理場所に困ることもありません。また、コピーや書類の郵送といった雑務にかかる手間もなくなるため、生産性の向上が見込めます。
コストの最適化
書類をデータ化できるため、印刷費・郵送費・保管料といったコストが不要になります。また、テレワークやオンラインでのミーティングなどを活用すれば、交通費や出張費などもかかりません。単純な事務作業をデジタル化すれば、それにかかる人件費も最適化できるでしょう。
デメリット
デメリットとしては以下のようなことが考えられます。
セキュリティの脆弱性が露呈
デジタル化が進めば、企業の重要な情報も共有サーバー上で管理することになります。そのため、これまでセキュリティ対策を怠っていた企業の場合、かえってセキュリティの脆弱性が露呈してしまうことも考えられます。
セキュリティ対策が整備されていないと、データ改ざん・個人情報や重要機密の流出などのリスクがあり、顧客からの信用を失いかねません。この機会にあらためてセキュリティ面に問題がないか見直しておきたいところです。
システムや機器の整備・運用が必要
これからデジタル化に向けて本格的に準備をする企業では、新たにシステムや機器の導入・整備が必要です。また、導入後も適切に運用していかなければなりません。
社内に人材がいない場合には整備や管理・運用を外注しなければならず、コストがかさんでしまうことも考えられます。
おわりに
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今回は2021年9月に新設される予定のデジタル庁について、基本方針や企業に与えるメリット・デメリットを紹介しました。 デジタル庁が発足し、政府・社会へのデジタル化が進めば、個人や事業者にとって安全で便利に行政サービスが利用できるようになるでしょう。行政手続きなどが簡単になり、役所へ出向く時間がない方でもオンラインで手続きが可能になるなど、利便性の向上が期待できます。 企業にとっては、業務効率化や生産性のアップ、コスト最適化などが見込める一方、セキュリティ面やシステムの導入・整備にかかるコストなどの懸念点もあります。 |
デジタル庁の新設によってデジタル化が進められるのは明らかですので、まだ準備の整っていない企業は、少しずつでも準備を始めるのが得策といえるでしょう。
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