2017年1月10日第3回 覚醒のとき - 勝利へのターニングポイント
“もっともっとレベルアップしていきたい”
-- 髙梨沙羅(女子スキージャンプ)
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オリンピックに5大会連続で出場し、長野五輪での団体金メダルを含む計3個のメダルを胸に飾った男子ノルディックスキー・ジャンプの原田雅彦から話を聞いたのは、ソチ五輪開幕3カ月前のことだ。 |
写真:朝日新聞社/ゲッティ イメージズ
女子ジャンプはソチ五輪から正式種目として採用された。オリンピック前までW杯13戦10勝と圧倒的な強さを誇った髙梨には、わずかばかりの死角もないように感じられた。
ところが、である。ソチのシャンツェには魔物が潜んでいた。彼女が助走路に立つと追い風に変わり、十分な揚力を得ることができなかった。
とりわけ2本目が気の毒だった。98.5メートルしか飛べず、屈辱のメダルなしに終わった。
彼女は肩を落として、こう語った。
「やることは一緒。変わらず臨んだつもりだったけど、やはりどこか違うなと思いました」
オリンピック後も不調は続いた2014-15シーズンは世界選手権で4位。2年続いたW杯総合優勝も明け渡した。
才能だけでは勝てない。そう覚悟を決めた髙梨はフォーム改造に乗り出す。
変えたのは助走のスタートだ。小柄な髙梨はスタート前のバーに座ると、足が地面に届かない。それまではバーから飛び降りるようにして助走路に入っていたが、両足をしっかりと地面に着けてからスタートするかたちに変えた。助走段階での重心の安定が狙いだった。
これが功を奏した。15-16シーズンはW杯で第3戦から10連勝。17戦14勝という驚異的な勝率でシーズンを終えた。総合女王の座も2年ぶりに奪還した。
完全復活を遂げた髙梨は今シーズンも既に5勝を挙げるなど絶好調だ。第3戦では1本目4位と出遅れたが、2本目で最長不倒の98.5メートルを飛び、逆転優勝を果たした。
「難しい条件の中で、集中力を切らさず飛ぶことができた」
心身ともに成長した姿が、そこにあった。
ここまで積み上げてきたW杯通算勝利数は49。女子ではもちろんトップ、男子に目を移しても、上にはグレゴア・シュリーレンツァウアー(オーストリア)しかいない。シュリーレンツァウアーの通算勝利は53勝。今の調子を持続すれば、今シーズン中にも抜き去る可能性がある。
「オリンピックに戻ってこられるように、もっともっとレベルアップしていきたい」
オリンピックでの借りはオリンピックでしか返せないという。
2度目のオリンピックまで、あと1年少々――。平昌のシャンツェが魔物退治の舞台となる。
にのみや・せいじゅん
1960年、愛媛県生まれ。スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。五輪、サッカーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『プロ野球 名人たちの証言』、『広島カープ 最強のベストナイン』など著書多数。
