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2017年1月10日第2回 覚醒のとき - 勝利へのターニングポイント

“もっともっとレベルアップしていきたい”
-- 髙梨沙羅(女子スキージャンプ)

高梨沙羅 表彰式

 オリンピックに5大会連続で出場し、長野五輪での団体金メダルを含む計3個のメダルを胸に飾った男子ノルディックスキー・ジャンプの原田雅彦から話を聞いたのは、ソチ五輪開幕3カ月前のことだ。
 いきおい話題は、女子ジャンプの新鋭・髙梨沙羅に及んだ。
「メダルは確実として、あとはどの色を取るかですね。ぜひとも金メダルを取ってもらいたいですし、彼女もそのつもりでいるでしょう」
 異議なし、という思いで聞いていた。
「彼女はまだ17歳の高校生ですが、技術的なところはすべて整っています。身長152センチと小柄ながら、グングン距離を伸ばしていきます。勢いがあり、良い意味で怖いもの知らずですね。
 とくに彼女のジャンプは、飛び出しの角度の鋭さがとても良い。ジャンプのときには、できるだけ空気抵抗を少なくして勢いよく飛び出さなければなりません。普通の選手は中学・高校を通じてだんだん時速80キロのスピードに慣れていくわけです。しかし彼女はすでに一流選手のスピードを身につけている。フォームの美しさも世界一です」

写真:朝日新聞社/ゲッティ イメージズ

 女子ジャンプはソチ五輪から正式種目として採用された。オリンピック前までW杯13戦10勝と圧倒的な強さを誇った髙梨には、わずかばかりの死角もないように感じられた。
 ところが、である。ソチのシャンツェには魔物が潜んでいた。彼女が助走路に立つと追い風に変わり、十分な揚力を得ることができなかった。 
 とりわけ2本目が気の毒だった。98.5メートルしか飛べず、屈辱のメダルなしに終わった。
 彼女は肩を落として、こう語った。
「やることは一緒。変わらず臨んだつもりだったけど、やはりどこか違うなと思いました」
 オリンピック後も不調は続いた2014-15シーズンは世界選手権で4位。2年続いたW杯総合優勝も明け渡した。
 才能だけでは勝てない。そう覚悟を決めた髙梨はフォーム改造に乗り出す。
 変えたのは助走のスタートだ。小柄な髙梨はスタート前のバーに座ると、足が地面に届かない。それまではバーから飛び降りるようにして助走路に入っていたが、両足をしっかりと地面に着けてからスタートするかたちに変えた。助走段階での重心の安定が狙いだった。
 これが功を奏した。15-16シーズンはW杯で第3戦から10連勝。17戦14勝という驚異的な勝率でシーズンを終えた。総合女王の座も2年ぶりに奪還した。
 完全復活を遂げた髙梨は今シーズンも既に5勝を挙げるなど絶好調だ。第3戦では1本目4位と出遅れたが、2本目で最長不倒の98.5メートルを飛び、逆転優勝を果たした。
「難しい条件の中で、集中力を切らさず飛ぶことができた」
 心身ともに成長した姿が、そこにあった。
 ここまで積み上げてきたW杯通算勝利数は49。女子ではもちろんトップ、男子に目を移しても、上にはグレゴア・シュリーレンツァウアー(オーストリア)しかいない。シュリーレンツァウアーの通算勝利は53勝。今の調子を持続すれば、今シーズン中にも抜き去る可能性がある。
「オリンピックに戻ってこられるように、もっともっとレベルアップしていきたい」
 オリンピックでの借りはオリンピックでしか返せないという。
 2度目のオリンピックまで、あと1年少々――。平昌のシャンツェが魔物退治の舞台となる。

二宮氏プロフィール

にのみや・せいじゅん

1960年、愛媛県生まれ。スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。五輪、サッカーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『プロ野球 名人たちの証言』、『広島カープ 最強のベストナイン』など著書多数。

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