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2019年06月06日第10回 『MaaS』

交通のデジタル革命

 「所有から利用」、「モノからサービス」──。AI(人工知能)をはじめとした情報通信技術によって生活もビジネスも大きく変わる。すぐそこにあるのが、交通手段を一体的に統合、利便性の高いサービスを提供する「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」である。

 「アズ・ア・サービス(as a Service)」は、情報システムに関係している人にはおなじみである。代表的なのは「SaaS」。ソフトウェアをパソコンにインストールして使うのではなく、インターネット上に共用ソフトを置き、必要な時だけ借りて利用する。インターネットが普及したことによって可能になった。「所有から利用」への転換を象徴するものだ。

 MaaSは、「移動」をサービスとして提供する仕組みである。スマートフォンやインターネットなどをベースに、自動車や電車、バス、飛行機などの移動手段を組み合わせて一体化し、一つの「サービス」として利用する。

 チャットボット

(Illustration : Saho Ogirima)

 最初は自動車や自転車、バスなどの個別的な交通手段のスマホ利用。「カーシェア」「サイクルシェア」「ライドシェア」「オンデマンドバス」などから始まった。利用者の要求に応じて電車やバス、カーシェアの連携を効率よく運用する仕組みをつくり、情報を提供する。

 すでに私たちが利用している「経路検索」サービスには、目的地までのルート選択や料金表示などの機能があるが、これでチケット購入やバス乗車予約、レンタカーの申し込み、ホテル予約などがその場で簡単にできれば、MaaSの入り口は通過する。

 自動運転車もカギを握る。大量の位置情報や周辺情報を得てAIなどを駆使して運行する。指定された目的地に混雑を避けるルートを選び、事故も回避する。

 「カーシェア」ではスマホで呼んだ自動運転車が最短時間のルートを選んで指定場所に来る。自動車メーカーだけでなく、各分野の技術の統合が必要で企業間提携も激しい。高度走行技術のほか、レストランやレジャー施設などの沿道情報、それを提供するサービスなど、車内で過ごす時間の快適性を増す情報提供の充実もMaaSのターゲットになっている。

 総合的な技術の要求は、一企業や企業グループではこなしきれない。各要素の要求を満たす膨大なビジネス機会が生まれてくる。例えば、バラバラの各分野の情報を統合して標準化するプラットフォームが新しく誕生するだろう。さらに個別の交通システムを超えて社会全体のインフラ構築も求められるかもしれない。当然、産官学が連携しなければならないし、その結果、新しい産業分野が次々と生まれるだろう。まさに日本の産業界にチャンスが来ているといえる。

 MaaSの研究は海外で先行している。フィンランドでは「ウィム」というサービスだ。利用者は複数の交通経路から最適なものを選び、予約から乗車、決済まで一括して利用できる。スマホのアプリを使って、バスや電車のほか、タクシーやバイクのシェアもできる。ドイツでも大手自動車メーカーが利用者の要求に応じて最適な交通手段の選択ができ、予約や料金決済までできるプラットフォームづくりが進む。

 まだ始まったばかりだが、夢の多い未来市場である。

文=中島 洋[Nakajima Hiroshi]

株式会社MM総研 代表取締役所長
1947年生まれ。日本経済新聞社でハイテク分野などを担当。日経マグロウヒル社(現・日経BP社)では『日経コンピュータ』『日経パソコン』の創刊に関わる。2003年、MM総研の代表取締役所長に就任。

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