2019年03月12日第9回 『チャットボット』
質問の回答者はAIだった
奇妙な単語だが、意味はシンプルである。おしゃべり、会話を意味する「チャット」と自動的に作業をしてくれるプログラムを意味する「ロボット」を組み合わせた造語である。ロボットの後ろにはAIが控えている。つまり「AIの機能を利用し、人に代わって会話やメッセージのやりとりを自動的に行うコンピュータプログラム」である。
このチャットボットがビジネスの現場で急速に普及しつつある。
最も期待されているのが、さまざまな問い合わせに対応する部門での利用である。問い合わせについては、FAQ(頻繁にある質問の回答集)を用意して、質問に答える側の手間を省く工夫がされているが、質問する人は逐次的に質問を重ねて進んでいくので、答える側は煩わしさを感じる。
しかし、チャットボットでは、裏側でAIが働いて答えるので、答える側の人間の負担が少なく、音声(あるいは文章)での問い合わせに対して短時間のうちに音声(あるいは文章)で答えてくれる。人が応対するよりもスムーズなこともある。これまでの知識では回答できないときには、熟練の担当者に回す。その回答は新しい知識となって、さらにチャットボットは賢くなる。また、従来通りに顧客対応は人が行って、担当者がチャットボットを使い回答時間を大幅に短縮して効率を向上させる効果も上がっている。
多様な現場でいろいろな「問い合わせ」の作業がある。通販の申し込み、消費者相談、製品の取り扱いのアドバイス、ネットラーニング、旅行ガイド、料理教室、社内の総務や人事関係の問い合わせ対応など、枚挙にいとまがない。すべてチャットボットの出番だ。
AIも最初はノウハウを持った人が「教師役」として知識を教え込むが、そのうちに経験を積んで、知識は豊富になる。AIは多くのユーザーが利用するほど「賢く」なっていく。
単なる問い合わせだけではなく、ネットショッピングでは、ユーザーからの相談を受けながら商品を選んでいく「カリスマ店員」にも成長していく。音声だけではなく、画像や映像をユーザーに見せながら商品を勧めていくのである。スマホの普及でチャットボット利用のケースは急拡大した。
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(Illustration : Saho Ogirima) |
時間が経過していけばいくほど、AIは知識を豊富にしていくし、対応も熟達していくので、ユーザーには頼もしい相手になる。
もちろん、チャットボットを導入する側にも大きなメリットがある。まず、飛躍的に業務効率が上がる。現下、最大の悩みである人手不足の緩和だ。チャットボットは知識をデータベースで共有するので、チャンネルを増やしても即戦力として働いてくれる。多数のチャンネルから入ってくる応答記録は知識として蓄積していくので、レベルはどんどん上がって、優秀な応答ができるようになる。また、人間と違って、時間的制約がない。深夜でも、24時間稼働しても、労働問題は起こらない。人の2倍も3倍も作業をこなしてくれる。
投資に対する効果が目に見える頼もしいITである。
文=中島 洋[Nakajima Hiroshi]
株式会社MM総研 代表取締役所長
1947年生まれ。日本経済新聞社でハイテク分野などを担当。日経マグロウヒル社(現・日経BP社)では『日経コンピュータ』『日経パソコン』の創刊に関わる。2003年、MM総研の代表取締役所長に就任。