2018年10月10日第8回 『虹彩認証』
瞳の情報で個人を識別
本人確認── 高度に複雑化した社会では、個人が活動するために必須の確認作業である。しかし、これが意外に難しい。日本のリアル社会では、運転免許証やパスポートの顔写真と持参した人を見比べて「本人確認した」ことにしているが、いかにも抜け穴だらけである。ネットワークやパソコンの利用、あるいは重要な作業場所や施設への入室などの場合は、もっと厳重な本人確認作業が必要である。
そこで、確実な本人確認手段として注目されているのが「目」を対象にした「虹彩認証」である。虹彩は、黒目の内側にある瞳孔の周りのドーナツ状の部分。虹彩は複雑で、各人がそれぞれ固有のパターンを持ち、生涯不変とされている。角膜に覆われているので損傷しにくいのも特徴だ。
まず、「本人確認」の歴史を振り返ってみる。
なじみ深いのは「パスワード」。文字や数字を組み合わせたものだが、その安全性はかなり揺らいできた。詐欺的手法やサイバー攻撃、人為的原因などによって、パスワードの情報が流出しているのである。
パスワードの弱点を補完して利用されているのが、「虹彩認証」を含む「生体認証」である。
「生体認証」は人間の「身体的特徴」や「行動的特徴」の情報を用いて行う。個人個人で特有のパターンがあって、特に「身体的特徴」は生涯不変とされる。「虹彩認証」のほかに、「指紋」「掌紋」「顔」「声紋」「指紋静脈」「掌紋静脈」などがあって、すでにいろいろな形で製品やサービスが実用化されている。
とりわけ急浮上中なのが「虹彩認証」である。
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数年前から海外の主要空港の入管手続きで、視力検査のような装置をのぞくように指示されるようになった。虹彩を撮影して登録している。指紋や顔認証より本人識別が正確だとして採用されたようだ。入国管理は、顔写真の観察に加え、虹彩のチェックで補完され、厳格になる。国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO)も虹彩認証を将来のパスポートの生体認証の国際標準の一つと認めている。 |
(Illustration : Saho Ogirima)
虹彩認証が他の生体認証技術より注目されるのは、①高精度・高速で利用でき、各種生体認証のなかでは精度がトップクラス、②右目・左目で異なるので、それぞれの目で認証できる、③双子も識別できる、④帽子・マスク・眼鏡・手袋着用でも目を露出していれば利用できる、④赤外線カメラを使って夜間や暗い場所でも認証できる、⑤装置に接触しなくてよいので衛生的、などの特色があるからだ。
情報機器のセキュリティとして、一部のパソコンやスマホのユーザー確認にも利用され始めており、その正確さ、簡便さから、虹彩認証は本人確認の本命になるかもしれない。
文=中島 洋[Nakajima Hiroshi]
株式会社MM総研 代表取締役所長
1947年生まれ。日本経済新聞社でハイテク分野などを担当。日経マグロウヒル社(現・日経BP社)では『日経コンピュータ』『日経パソコン』の創刊に関わる。2003年、MM総研の代表取締役所長に就任。