2017年1月16日第3回 エッジコンピューティング

クラウドの負荷を減らし
端末の近くでデータ処理

 コンピュータ利用の歴史は、ある角度から見ると、「集中」と「分散」の繰り返しである。もちろん、「完全な分散」、「完全な集中」というのではなく、どちらの比重が大きいかということだが、現在はクラウドコンピュータの時代で、「集中」の性格が圧倒的に強くなっている。例えば、端末の側は情報処理機能やデータ保管機能をなくした「シンクライアント」を使い、クラウド側で情報処理やデータ保管を行うようにしている。
 スマートフォンの場合も、主要な情報はクラウド上にあって、それを取り出して利用するという仕組みになっており、「集中」の性格が強い。スマホでアプリの表示機能処理など一部は分散で行うにしても、基本は「集中」になっている。
 しかし、ネットワークが進化し、すべてのモノがインターネットにつながるIoTの時代になると、再び「分散」の比重を大きくする仕組みが提唱されている。過度に「集中」が進むと、そのメリットを消し去るような非効率が浮上してきているのである。

 エッジコンピューティング

 IoTでは、家庭の電気製品や工場の中の機械群、オフィスの事務機器、環境監視センサー、自動車の運行制御機器など、モノに埋め込まれたセンサー群から膨大な量のデータがクラウドに集められる。それらの情報が処理加工され、それがまた端末にフィードバックされてゆく。「集中」によるビッグデータ解析でこれまで見えなかった状況がどんどん発見されて、次元が1つ上の高度な情報社会が出現しつつある。
 しかし、膨大なデータがクラウドに集められると、サーバの処理が遅れたり、遠隔地にあるセンターとのデータ転送で遅れが生じ、通信回線も大渋滞を起こす。それを克服しようと登場したのが、再び「分散」の性格を持ち込む「エッジコンピューティング」である。

(Illustration : Saho Ogirima)

 クラウドの縁(エッジ)、つまり、端末の近くにサーバを置いて、クラウドの処理機能を分散して担当させ、負荷を軽減しようというわけである。また、端末で処理しているアプリの機能もエッジのサーバに取り込んで、スマホなどの端末の負荷も軽くできる。情報処理がセンターに集中してきたため、一時は役割が少なくなっていた分散サーバに、「エッジコンピューティング」という重要な新しい機能が付与されて、その役割が見直されてきたといえる。
 「端末に近い側に」ということで、サーバを各地に分散配置するとなれば、情報インフラ投資の流れが変化してくる。分散サーバが各地域に大量に配置されると、それに要する投資がかさんでくると思われるが、IoTの進展にともなってデータの流通量が爆発的に増えてネットワークの運用コストが増大するのを回避できるのであれば、分散サーバへの投資は理にかなっている。IoTによって膨らむ情報投資の配分がエッジサーバにも重点的に振り分けられることになるのではないか。
 一部の試算によれば、エッジコンピューティングによってクラウドへのデータ集中を緩和できれば、渋滞によるデータ転送の遅れが100分の1程度に圧縮されるという。「クラウド」は「エッジ」によって補完され、より効率的な仕組みへと進化する。「集中」プラス「分散」で、また、一歩、情報社会は深まってゆく。

文=中島 洋[Nakajima Hiroshi]

株式会社MM総研 代表取締役所長
1947年生まれ。日本経済新聞社でハイテク分野などを担当。日経マグロウヒル社(現・日経BP社)では『日経コンピュータ』『日経パソコン』の創刊に関わる。2003年、MM総研の代表取締役所長に就任。

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