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2016年9月7日第2回 ディープラーニング

人間を追い越す日が
やがて訪れるかも

 コンピュータがどんどん賢くなる。呼び名も「AI」(人工知能)に変わった。どこまで賢くなったのか。最近の話題では、囲碁のプロ棋士を打ち負かした。ルールや駒数が少ないチェスや将棋で負けた際には、囲碁ははるかに複雑なので簡単にはAIには負けないだろうといわれたが、予想以上のスピードである。
 賢さが加速する原動力の裏側には、技術の変化がある。新たに登場した「ディープラーニング」(深層学習)だ。大量の情報を入力して並行処理し、試行錯誤を経て正しい解法へと自動的に近づいてゆく仕組みである。囲碁などのゲームだけでなく、すでに顔認識や株価予測、物体認識、自動運転システムなど商用化されている分野は幅広い。

 この深層学習を支えるのはニューラルネットワークと呼ばれるシステムだ。従来のコンピュータとは構造がまったく違う。人間の脳神経回路網(ニューロン網)を模したニューラルネットで構成される。人間の脳内の「ニューロン」と同様の機能をもつ「ニューロチップ」が複雑に連結して膨大なネットワークを作る。それが“新しい”の正体で、深層学習を実現する。  ニューロチップには、複数の経路からデータが入ってくるが、これを積算処理して、その結果を隣接する複数のチップに送る。その際に有意味な関連性の強いチップへの経路が生き残り、その他の経路は試行錯誤のうちに消えてゆく。システム全体としてみれば多数の情報を受け取って、それを並列で高速に情報処理し、出力する、という構造である。

ディープラーニングイメージ図

 意味のある経路が選択的に生き残ってゆくので、経験を積めば積むほど賢くなる仕組みである。従来のシステムは人間がルールを教え込んだが、ニューラルネットは試行錯誤を繰り返して自動的に妥当性の高い情報処理のシステムへと成長してゆく。画像や音声認識、文章理解、各種情報処理など、ニューラルネットは重層化して独自に発展し、別の層のネットワークに情報を上げてゆく。最終的な出力結果を導く計算過程や学習過程はユーザーには見えない深層部で行われる。
 ニューラルネットは大量の情報を受けて短期間で精度の高い結果を出すように成長する。一方、人間が経験的に獲得した業務知識は、深層学習のシステムに追い越されてゆく。多数の機械が情報を共有する仕組みを作れば、経験の数が圧倒的に増大するので、精度は猛烈な速度で向上することになるだろう。ビッグデータ時代にはさらに成長が加速する。
 顔認証などのセキュリティ分野はもちろん、経理処理や人事・労務・総務などの事務分野、疾病診断・施薬などの医療や農作業、自動車の自動運転、観光分野での案内や自動翻訳・通訳など、社会のあらゆる分野で仕事のあり方を変えてゆくのは確実である。
 現在ある職業のうち3分の2は10年後にはAIに置き換わる、と予測する学者もいる。大変動の時代がやってきそうである。

文=中島 洋[Nakajima Hiroshi]

株式会社MM総研 代表取締役所長
1947年生まれ。日本経済新聞社でハイテク分野などを担当。日経マグロウヒル社(現・日経BP社)では『日経コンピュータ』『日経パソコン』の創刊に関わる。2003年、MM総研の代表取締役所長に就任。

(Illustration : Saho Ogirima)