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2016年6月15日第1回 スマートマシン

自ら判断し、行動する
高い知能を備えた“夢の機械”

 自動運転自動車や人の感情や要求を理解して適切に対応してくれるロボット、適度な高度を飛行して障害物を避けて目的地に即座に商品を届けてくれるドローンなど、機械が急速に知恵をつけ、賢くなってきた。人間が手助けしなくても、機械自身で判断して、状況に合わせてミスを修整し、人間以上の能力を発揮する。その能力は加速度的に向上しつつある。
 こうした機械を「スマートマシン」と呼ぶ。「自律的に行動する」「知能と自己学習機能を備える」「状況に応じて自ら判断し、適応する」「人間しかできないと思われた作業を実行する」という機能を備えた新型の電子機械である。中核にあるのは、AI(人工知能)技術だ。機械が人間よりはるかに優れた知能をもった状況といえる。行動や判断はそれぞれ自律的だが、状況を判断する基礎になる情報は、他の機械群とネットワークで高度に共有し、整理された深い知識である。
 機械のこうした姿は、これまで語られてきた“夢の機械”のイメージである。しかし、背景にある状況は少し違う。インターネットやSNSの世界を飛び交う膨大な情報を大量に取り込んで判断材料にするなど、「集団的英知」を活用し、高次元の知能を備えた電子機械に成長したのである。
 かつてのコンピュータやロボットは人間がプログラミングして指示を与えた通りにしか動かなかった。しかし、いまや機械は「自律的に」「学習」しながら、状況に応じて適切に判断し、動いてゆく。それを可能にしているのが、超高速に情報を転送するネットワーク、そのネットを通じて集められる膨大なデータ、それらのデータを短時間に解析して次の動作を選び出すソフトウェア技術、それらの情報を基に動作する部品や新素材類である。
 特に「学習」する範囲が巨大な空間に広がったことが大きい。個々の機械が経験した成功や失敗の情報はネットワークによって互いに共有するので、「経験」はすぐに全システムの知識に転化し、相互作用を起こして、指数関数的なスピードで進化、高度化し続けるものになる。上述した「集団的英知」である。
 人間よりもはるかに優れた知能を獲得した機械である。

 一方で、不安もある。これまで人間にしかできないと思われていた仕事を奪うのではないか、という心配だ。自動運転自動車が普及すれば、運転手の仕事がなくなる。わかりやすい例が、タクシー運転手である。自動車自身が地理空間情報を認識し、障害物を避けて走るようになれば、人間の運転より安全で素早く目的地に連れて行ってくれる。大量のタクシー運転手が仕事を奪われる可能性もないとはいえない。
 秘書や事務員も職を失うかもしれないといわれている。学校の先生はどうか。宅配便の運転手や配送センターの作業員は……。さらに居酒屋のスタッフロボットや農場や工場の作業ロボットなど、人間よりも賢い機械がどんどん主役になってゆくかもしれない。
 このように、スマートマシンが普及すれば、日々の暮らしや社会に大きなインパクトをもたらす可能性がある。私たち人間は、人間にしかできない創造的な分野で活躍するような、そんな未来が訪れるかもしれない。

文=中島 洋[Nakajima Hiroshi]

株式会社MM総研 代表取締役所長
1947年生まれ。日本経済新聞社でハイテク分野などを担当。日経マグロウヒル社(現・日経BP社)では『日経コンピュータ』『日経パソコン』の創刊に関わる。2003年、MM総研の代表取締役所長に就任。

(Illustration : Saho Ogirima)